今
彼女は背筋を伸ばし、東京の街中を歩く。スカート、ブーツ、そして髪に合わせた真っ黒なサングラスは陽の光を反射しきらめいている。一生をかけて身につけた、自信に満ちた足並みで周囲の視線を弾き返す。ちらつく肌への相矛盾的な肉欲と怪訝の視線、「女性らしくない」黒いリップに対する嫌悪の視線。数知れない視線が何か気にくわないものがないかと体中を眇める。昨日だったら、そんな視線ももはや味を失った「慣れてるし」で無することができた。「だって慣れてるし。」
でもそれは昨日までのこと。
二十年も服従してきた。二十年も、何も言わず。二十年も、麻痺するまで同じ毒を飲まされ続けてきた。
もう我慢できない。
しちゃいけない。
今が、変化の時。
訳)杉山大悟